弘前大学 物性理論研究室(御領研)
Theoretical Condensed Matter Physics, Hirosaki University
物性物理学という用語は日本特有のものだそうで、英語で対応するは
condensed matter physics, 直訳すると凝縮系物理学となります。その理論的研究を行なっています。
おおまかにいうと、私たちは物質中に数多く存在する電子の振る舞いを調べています。物質中の電子は、結晶格子の影響を受けながら運動しています。同時に電子同士の間に働くクーロン相互作用の影響も強く受けます。また、物質の温度を変えたり磁場や圧力などを作用させると、その影響も強く受けます。その結果、真空中に電子が1個だけ存在している状況からは想像もつかないような多彩な現象、例えば電子の有効質量が著しく増大する重い電子系、ホール伝導度が電気伝導度単位の整数倍・分数倍に量子化される整数・分数量子ホール効果、さらには金属を冷やすとある温度を境に抵抗なく電気が流れるようになる超伝導現象などを示すようになります。多体電子系のバラエティに富んだ興味深い性質を理論的に解明し、物質科学の基礎を築くことに少しでも貢献していきたいと望んでいます。いままで誰にも知られていない、予想もしなかったような面白い現象や法則が、これからもまだまだ見出されるに違いないと信じて研究しています。
私たちが主に手がけている超伝導の研究について、少し詳しく紹介します。繰り返しになりますが、超伝導は金属を冷やして行くと、ある温度を境に電気抵抗が急激にゼロになり(電力消費ゼロで電流が流れます)、同時にマイスナー効果(超伝導体内部から磁場を弾き出す効果)を示す驚くべき現象です。しかし、これらの性質以外にもさらに多彩な性質を示すとても面白い超伝導体がまだまだあり得ます。また、もっと高い温度で超伝導になる物質もあるでしょう。こうした未知の超伝導体の存在や性質を理論的に明らかにすることが、私たちの目的です。超伝導体の新たな特性・機能を次々に解明することで、新しい工学的応用の発展へと繋がるかもしれません。
特に興味を持って続けている研究テーマは、カイラル超伝導体・超流動体と呼ばれるものです。これは時間反転対称性(動画を逆再生させる変換に対する対称性)を破るトポロジカルな超伝導・超流動状態で、先ほど挙げた整数量子ホール効果の超伝導版となっています。言い換えれば、凝縮系物理学の中でとてつもなく重要な位置を占める量子ホール効果と超伝導の2大現象が、互いに手を組みつつ現れているような大変興味深い超伝導状態です。そして最近私たちは、カイラル超伝導状態の中でも特に dx2-y2 + i dxy 波状態と呼ばれる未発見の超伝導状態が、 SrPtAs という蜂の巣格子状物質で実現しているかどうか、スイスやドイツの研究グループと協同して確かめようとしています(2020.4現在での参考文献:1,2,3,4,5,6)。
当研究室への進学を考えてくださっている学生さんたちへのメッセージとなりますが、量子力学が好きな人が向いていると思います。研究に使う発展的な手法として、(ゲージ)場の理論的手法やトポロジーなどが挙げられます。しかし、はっきり言ってしまえばそんなことは些細なことです。大切なのは物理に対する興味と熱意で、それさえ持っている人ならば大歓迎します。